アイヒマン実験(ミルグラム実験)
人はどこまで権威に服従してしまうのか?

第二次世界大戦中に起きた、ナチスによるユダヤ人大量虐殺。
その責任者だったのがアドルフ・アイヒマンという男です。

しかし、逮捕され裁判にかけられた彼は決して異常な人格の持ち主などではなく、ただ命令に従っていただけの平凡な人物でした。 

この事実は当時人々を困惑させました。
残忍で非人道的な行為を行なっていたのは、どこにでもいるようないたって普通の男だったのです。

そして、このことはある疑問を浮かび上がらせました。
それは、「権威者に指示されたら、どこにでもいるような平凡な人でも残忍な行為を行なうのか?」 というものです。

それを検証するために行われたのが、イェール大学の心理学者スタンレイ・ミルグラム教授によって1963年に行われた「アイヒマン実験(ミルグラム実験)」と呼ばれるものです。

これによって、閉鎖的な状況における権威者の指示に従う人間の心理状況が明らかにされたのです。

以下でさらに詳しく解説していきます。

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目次

アイヒマン実験の流れ

アイヒマン実験(ミルグラム実験)は、次のような流れで行われました。 

⑴新聞広告で被験者を募集。

⑵無作為に集められた一般人を教師役と生徒役に分け、それぞれ異なる部屋に入れる。


教師役か生徒役か振り分ける(実際の写真)

⑶教師役となった被験者は、最小電圧15Vから最大450Vまでの電気ショックを与える30個のボタンの前に座らされる。

⑷教師役は、別の部屋にいる生徒役に問題を出し、間違えたら生徒の体に電流を流すボタンを押して罰を与えるよう指示される。


電流を流すボタンを押すよう指示

⑸電圧は、間違いが増えれば、どんどん強くしていくことも指示される。

⑹生徒役はあらかじめ答えを間違えるよう指示されているため、どんどん高い電圧が加えられていく。 (実際には電流は流さないが、教師役には知らされない)

電圧が高くなるにつれ、あらかじめ録音されていた生徒の絶叫が響き渡る。

⑻その声を聞き、教師役の被験者がボタンを押すことを躊躇すると、白衣を着た権威のありそうな男性が淡々とした口調で「そのまま続けてください」「続けてもらわないと実験が成り立ちません」などと実験継続を促す。


ボタンを押すのを躊躇し振り返る教師役の被験者①


ボタンを押すのを躊躇し振り返る教師役の被験者②


結局、ためらいながらも最後までボタンを押す教師役の被験者

この実験の主眼は、教師役となったごく普通の人々が、苦痛を訴える生徒役の被験者を目の当たりにしながら、どこまで権威に服従してしまうのか? ── というもの。

実験の結果

実験の結果、教師役の被験者が最後までボタンを押す確率は……なんと65パーセントに達しました。

生徒役の絶叫や懇願があったにも関わらずです。

ちなみに、300Vに達する前に実験を中止した者は一人もいなかったそうです。
そして、最終的に生徒役に加えられた(実際には加えられていないが……)電圧は450V。

人間が死ぬほどの強さでした……。

実験結果が示すもの 

この実験は、「閉鎖的な状況における権威者の指示に従う人間の心理状況」を実験したものです。
そして実験が証明したのは、”閉じられた環境で権威者の指示に抵抗するのは難しい”ということです。

多くの被験者は、良心の呵責にさいなまれながらも、結局は命令に服従してしまいます。

しかも、ここでの権威者は単なる実験の監督官であって、戦時中の上官でも、絶対的な権力を持つ教祖やブラック企業のパワハラ上司でもないのです。

それほど弱い権威に対してさえ、私たちは簡単には抵抗できないのです。

これは、ごく普通の人であっても、一定の条件下では冷酷で非人道的な行為を行うことを証明するもので、そのような現象を「ミルグラム効果」とも言います。

冒頭に書いたユダヤ人大量虐殺の責任者アイヒマンは、裁判の中で「自分は命令に従っただけ」と弁明しました。

それに対し、裁判を傍聴した哲学者のハンナ・アーレントは次のような言葉を残しています。 

「彼は考えることをせず、ただ忠実に命令を実行した。そこには動機も善悪もない。思考をやめたとき、人間はいとも簡単に残虐な行為を行う。悪は悪人が作り出すのではなく、思考停止の凡人が作る」

誰もがアイヒマンになる可能性を秘めている

高齢者を騙して高額の商品を買わせる……
自社の利益を増やすために手抜き工事をする……
組織内でパワハラやいじめが横行する……

私たちは、真っ当な人間なら誰もそんな行為をしないはずだと思い込んでいます。
たとえそんな場面に直面したとしても「自分は断固拒否してその場を立ち去るだろう」と考えているかもしれません。

しかし、組織のモラルが低下し、不正や犯罪にまで至るケースは後を絶ちません。
そうした事件は、閉鎖的な環境の中で権威者に服従した普通の人々が引き起こしています。

凡庸な悪は現代にも潜んでいます。
誰もがアイヒマンになる可能性を秘めているのです。

"第二のアイヒマン"にならないためには「自分の頭で考えることを止めないことだ」とアーレントは語りました。

あなたは、圧倒的な権威や空気の中にあっても最終的な善悪の判断を自分で行えるでしょうか?
自分の行動に対する責任を放棄しないでいれるでしょうか?
悪いことにはちゃんとNOと言うことができるでしょうか?

まとめ

50年以上も前に行われたこの実験は、私たちに厳しい現実を突きつけています。
残念ながら、ここで紹介した「ミルグラム効果」は現代でもたくさんの組織の中で繰り返され凡庸な悪を生み出し続けています。

私たちはこの実験で明らかにされた事実を忘れてはいけないでしょう。

モラルに反するような行為を行うのは、一部の非常識な人だとは限らないことを……。
ごく普通の人でも残忍な行為を行なう可能性があるということを……。

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カテゴリ モチベーションコラム
 タグ  心理学

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